2001年11月
2日〜4日







2001年11月 至仏岳〜尾瀬ヶ原



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水上駅前

東京に引っ越して良かったと思う理由のひとつに、でかい山への交通手段が格段に増えた事が挙げられる。
南北アルプス、会津高原、奥秩父、八甲田山、石鎚、そして今回の尾瀬と、いずれも直通の特急や夜行バスが
自宅の近くから出てて、すこぶる便利。という訳で、尾瀬も簡単だ。今年二回目である。
「新特急・水上号」使用。

前に来たのは5月−−ちょうど水芭蕉が盛り、残雪も美しかった。雪解けに華、という景色の旨みを堪能できた。
今回、JR 水上駅から眺めるかぎり、周囲の山からは紅葉の旨みがたっぷり出ていて、また違ったダシが楽しめそうだなと期待膨らむ。
駅前には土産物屋が多いが、少し歩けば24時間営業のコンビニもある(バス停前の地図参照)ので、いっぱい買い出して備えよう。





咲倉沢避難小屋

しかし、標高が上がって紅葉前線も過ぎた場所では、すでに、枯葉と常緑樹だけの色気ない構成だった。

各方面からの交通機関も、先週末で冬期休業に入り、タクシーやマイカーなしで着ける登山口は、
今回の登山口である湯の小屋のみとなっている。

尾瀬ヶ原までの所要時間は、エアリアマップでは「約10時間」とある。他の登山口と比べ、3倍以上の長丁場だ。
そのせいか利用を敬遠され、人通りは少ない。歩いていて、人恋しさが募る事おびただしい。

写真は、その侘しい稜線に建つ、殺風景な咲倉沢避難小屋。とても簡素で、外の寒気が直接吹き込んでくる。
まだイナバ物置で寝たほうが暖かいだろう。





笹薮の道

登山道は幅も広く、かつ良く踏まれていて歩きやすい。
ただ、人通りが少ないせいか、よく野生動物、それも人間より大型のやつの痕跡や気配に出食わす。
笹薮の影から、突然、のっぴきならぬ大音が聞こえてくるのだ。

越冬に備えエサを捜し求める熊やら何やらである可能性が高い。

今回は、鹿を二頭とツキノワグマを一頭、それぞれ50メートル位の距離から目撃できた。
霧が濃くて正体を判別しづらいので、心臓に悪い。走馬燈が頭をよぎってしまう。





豪快な構図の老獪杉

日本の樹林帯のほとんどは、何らかの形で人の手が入れられた人工林である。
手付かずのまま残っているのは意外と少ない。だいたいが天然記念物に指定されている位、意外と少ない。

それだけに、ひとたびそのような山域に足を踏み入れると、普段、登山中でさえあまり見掛けることのない
異形の樹木に、あなたは度々出会えるだろう。

人工林では出現まであと数百年を要しそうな老獪が、今回も多かった。
枝打ちされる事もなく伸び放題で、豪快な姿である。





種子カーペット

 木の梢が産み落としたおびただしい数の種が、
 登山道には敷き詰められている。

 幾層も堆積しているため、踏むと柔らかくて
 気持ちいい。

 寮の万年床より、ずっと快適に寝られそうだ。






至仏岳

このルートを使うと、湯の小屋からそれほどの急登を登らなくても、至仏岳に立てる。
マイカーが使える場合、鳩待峠から入ればもっと楽に来られるし、かつ距離も短い。

日本百名山という肩書きも手伝って、年中人が途絶えることはなさそうに思えるが、
ここは夏の登山シーズンは閑散としている(はずだ)。
植生保護の目的で、5月〜10月の間、入山禁止の措置が採られるからである。

よって、無雪期の至仏岳は結構レアもんであり、うまく休日をやり繰りしないと、
登山口から近いにも関わらずなかなか登れない。






至仏岳から尾瀬ヶ原を眺望する

至仏岳から尾瀬ヶ原を俯瞰するの図。奥には燧ヶ岳が居座る。
朝方なので、まだ盆地にたまったモヤモヤが抜けきっていない。

赤茶けた部分は湿原で、春から夏にかけては花咲き乱れる観光名所となる。
有名な水芭蕉も生えている。しかし今はつぼみを硬く閉ざし、枯草と区別がつかない。

中央付近を横向きに走る緑の帯は、川が流れている部分である。
湿原は地盤がゆるく、樹木の生育には適さないが、川の周りだけは、山から運ばれてきた土砂が堆積するので
比較的育つ。結果、川に添う形で林が育まれるのである。





至仏岳〜山の鼻

 至仏岳からの下り道は、傾斜がきつい。
 また、山肌が「蛇紋岩」という滑りやすい種類の岩で
 できていて、スリップや渋滞待ちが多い。

 鎖場も現れるし、雨の後に足を踏み入れるのはすこぶる危険。

 最後の方は木の階段なので少しはマシになるが、
 相変わらず急坂で、どちらにせよ逆ルートだったら
 相当嫌だろう。



 至仏岳の東側斜面は、標高 1500メートル付近
 に森林限界がある。つまり登山道のうち、樹林帯
 の中を歩ける部分はごくわずかである。
 晴れてたら晴れてたで、これも暑くて大変だろう。





山の鼻・至仏岳登山口

延々と坂を踏みしめて、湿原の底に至る。
登山道はここから先しばらく、平坦な木道ばかりで、時速 6km 出せるようになる。

ずっと二車線敷かれているが、それでも夏場は混み過ぎて歩きにくくなるらしい。
今の時期ならば、追い越し車線として使用できる他、写真撮影の時に気兼ねなくザック置き場にできて便利。





尾瀬の木道

尾瀬の夏の喧騒がどの程度か、自分は来た事ないので知らないが、晩秋はこの程度。これなら何でもできる。

路上で大の字に寝そべる/山に向かって叫びこだまに聞き惚れる/大胆な姿勢で写真を撮る、等の
行為に快感を覚えるようなら、もう浦安のネズミとかに何の魅力を感じる必要もないだろう。





浮島

名物の浮島。尾瀬ヶ原では、木道以外の部分への立ち入りが禁止されているので、乗ったり蹴ったりして
フワフワ感を確認できないのが残念だ。

風などに流されるのを辛抱強く待たないと、浮島と呼ばれる所以が全く分からない。





尾瀬ヶ原に掛かる橋

湿原内の川は、得てして流れが緩やかなので、水面下にも豊かな植生が広がっている事が多い。
橋の上や両端は、多くのカメラマンでいつも占領されている。
↓こんなのが撮れます。





尾瀬の川の中

 川を埋める多量の水草。

 これらが流水に身を任せ
 一斉に揺れる様は、水族館の水槽のようだ。

 間を小魚が泳ぎ回り、
 時折、銀色の鱗が光って見える。

 付近一帯は「竜宮」と呼ばれており、
 まったく上手く名付けたもんだ。



 竜宮の小屋は、まだ営業していて、
 ジュースが買えるし電話もできる。





閉ざされた尾瀬見晴
 今夜の宿泊地・尾瀬見晴の小屋は
 ことごとく今期の営業を終えていた。

 繁忙期は毎日がお祭り並であろう
 この日本有数の山小屋密集地も、
 雨戸を閉め切って人が去れば
 ゴーストタウンの佇まいである。

 テン場の水道は止まっており、
 水汲みは面倒(テン場と反対側に
 一箇所だけあった)だったが、
 タダで張れたので良しとする。

 夕刻から雨が降り出し、加えて
 急激に気温が下がり始めた。

 冬用シュラフだったからぬくぬく寝れは
 したものの…







一晩で積もった雪

翌朝、外の景色がちゃんちゃら変わっていた。
雪が降り積もり、紅葉がトドメを刺されてしまっている。道理で寒い訳だ。

夜半、雨がテントを叩く音が止んだものだから、「雨止んだな。ラッキー」と思っていたのに、とんだ変化球である。





凍ったテント

 テントも、いい具合に
 氷まみれになっていた。
 凍って袋に収まらず、撤収が
 大変だったのは冬山と同じ。

 雪が積もると、立ちションの痕跡が
 とりわけ目立つから(色で)、その点も
 余計な気を遣わねばならない。

 とっても面倒である。







雪化粧

しかし雪景色の強烈なインパクトは、毎度の事ながら面倒臭さを補って余りある。
スキー場と違って見る事に集中できるから、細かい部分までゆっくり咀嚼(そしゃく)し、
より多くの「かっこいい箇所」を発見できる。枝に積もった雪をつまみ食いながら歩くのも快感だ。

それほど豪雪ではないけれど、今日もお腹一杯楽しめそうだ。

これは、沼尻休憩所の脇で撮った一枚。休憩所自体は当然既に閉鎖していたが、トイレだけは開放されていた。
空けておかないと、そこら一帯で無差別にキジ撃ちされる為と思われる。





雪でコーティングされた梢の網

尾瀬ヶ原から尾瀬沼に向かう道沿いには、白樺の木が多く見られた。雪化粧がよく似合う。

雪景色に掛かる空の色は、偏光レンズを目一杯効かせてたしなむのが好きだ。
雲がひっきりなしに行き交うので、写真を撮るタイミングが難しい。
「今のが、きっとこの合宿中一番きれいやな」と思っても、1分後にもっとすごい空になってるのは珍しくない。





雪原を突くススキ

ススキ野原を不思議な景色に変えるには、わずか一晩で充分だ。
これから冬将軍が数ヶ月をかけて築き上げる風景は、尚のこと絶品だろう。

来年2月に来る時が楽しみである。





三平峠

 尾瀬沼から大清水に抜ける「三平峠」越えでは、
 威厳たっぷりの大木が迎えてくれる。

 青空はいつの間にか、雪雲の霞に覆い隠されていた。
 こんな水墨画のような景色に囲まれてしまっては、
 カラーフィルムの意義が全く失われる。

 木道の下は、野鳥の避難所になっていた。
 突然の降雪に梢を追われ、逃げ込んできた
 鳥共が、こちらの足音に驚いてまた逃げてゆく。
 さぞ神経の休まる暇が無いだろう。

 やがて木道が完全に雪で埋没してしまったら、
 彼らはその後、どこで冬をやり過ごすんだろう。





雪道終点

 三平峠を越えて30分も下ると、雪はみぞれに変わった。
 雪で覆われた部分もまばらになって、歩くスピードが上がる。

 ここは展望は無いが、夏の最盛期には、初詣の伊勢神宮か
 ネズミ園の乗り物なみに行列が出来るらしい。尾瀬入山の
 メジャールートのひとつである。途中に休憩所や売店も多い。

 しかし既に無人と化しているので、俺はただ急ぐだけ。





靴に降る雪の実

 下山口の大清水まで来ても、まだ雪らしきものがチラホラ舞っていた。
 意外に乾いた雪で、体に積もったやつを叩くと、引っかかったりせず
 靴までポロポロ落ちる。



 大清水から戸倉まで行くバスは、先週から冬季休業に入り、
 今は運行していない。
 帰るには、戸倉まで歩かねばならない。所要 3時間である。
 計画上の事とは言え、なかなかの大仕事で気が滅入る。

 大清水の売店は、まだマイカー客をあてこんで営業していたので、
 気合を入れるつもりで多量におやつを買いこんで歩き出す。
 このおやつでザックの背がかなり高くなっていたのが幸いしたのか、
 30分後、たまたま通りかかった軽トラックに拾って頂けた。

 ザックの高さは、ヒッチハイク成功率を上げる重要な要素であった。





バスの車窓から

戸倉と JR 沼田駅の間は、戸倉にスキー場がある為に、年中バスが走っている。
ただ、今の時期の週末は、きっと日光方面へ向かう車の大渋滞に引っかかるから、沼田に予定時刻に着けない可能性が高い。
指定席等は取らない方が安全だ。

沼田まで半分くらい下った辺りが、丁度紅葉の見頃のようだ。
バスも殆ど無人だったので、おもむろにカメラを構え、窓越し撮影する。車内にシャッター音が鳴り響いた。





虹の風景

後部座席の窓から尾瀬の方角を見ると、昼間なのにどす黒い霞がかかっていた。まだ雨雲の中なのだろう。
こちらは既に晴れ間の下だから、狭間に大きな虹が出来ていた。

形の完全性と発色性は素晴らしく、今までに見た中で最高の出来栄えである。スケールも大きい。
「文字通りの『大掛かり』やねぇ」と、隣の席のバアさんが笑顔でおっしゃる。

日本百名山を3つ従える尾瀬にふさわしい大きな虹で、最後まで楽しませてもらえました。
どうもご馳走様。





■ コース
【1日目】
JR 上越線・水上(みなかみ)駅−(湯ノ小屋行きバス)−湯ノ小屋−(0:25)−楢俣湖への車道分岐−(0:15)−稜線の途中(C1)

【2日目】
(C1)−(0:40)−営林署林道出合−(0:17)−営林署林道終点−(0:43)−咲倉沢避難小屋−(1:01)−片藤沼−(0:38)−笠ヶ岳−(1:02)−オヤマ沢田代−(0:18)−小至仏岳−(0:26)−至仏岳−(1:25)−山の鼻−(1:08)−龍宮小屋−(0:33)−見晴(C2)

【3日目】
(C2)−(0:28)−燧ヶ岳への分岐−(1:20)−白砂田代−(0:15)−沼尻−(1:03)−尾瀬沼山荘−(0:17)−三平峠−(0:14)−車道分岐点−(0:31)−一ノ瀬−(0:35)−大清水−(ヒッチハイク)−戸倉JR 上越線・沼田駅



■ 小屋
【咲倉沢避難小屋】 無人。1坪程度・平屋建ての寒々しいコンクリート造り。扉は取り外されていた。たぶん恐怖の一夜を明かすことになる。

【その他の小屋】 10月末までは有人。食べ物と水はデフォルトで備わっている。

■ 幕営可能地点
【1日目のコース上】
楢俣湖への車道分岐に、10ていど張れる。しかしツキノワグマの縄張りになってる可能性が高い。

【2日目のコース上】
営林署林道出合営林署林道終点は、掘削機械によって大規模に均されているため多量に張れる。大いに利用しよう。
山小屋の集落である 山の鼻龍宮見晴 は、シーズン終了後でも幕営可能。べつに鉄条網とかで閉ざされていたりはしない。

【3日目のコース上】
一ノ瀬大清水ならば、閉鎖した小屋の脇などに張れる。

【その他の部分】
国定公園内なので、無理と思ったほうがよさそうである。

■ 注意点・その他参考となる情報
11月上旬であれば、冬用シュラフ+ヤッケ上下+冬用燃料を推奨。
また、手袋は必携。テント撤収時に手が凍りつく。

入山地点の湯ノ小屋登山口には、龍洞という名の温泉宿があり、これがコテコテの"秘境の温泉宿"の佇まいを醸し出している。
過多の残業で疲れている人、温泉好きのOLや女子高生等が見たら、かなりの確率で惹かれると思います。
横目に通り過ぎざるを得なかったが、これから雑木林の中でテント泊するのが、とてつもなく躊躇われてしまった。こんな様子。



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