2004年 5月 黒部ダム~剱沢大滝

2004年 5月 黒部ダム~剱沢大滝

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2004年 5月に行った、北アルプス・黒部ダム~十字峡~剱沢大滝(I滝)のトレッキング記録です。写真撮影機は携帯電話(SH505i)。

行者ニンニク畑でジンギスカン食べたり、剱沢大滝も見れてエキサイティングでしたが、帰り道、増水で内蔵助沢を渡渉できず、危うく会社馘になるとこだった。

トイレ案内板

「剱沢大滝」を見に行った。

北アルプス黒部峡谷の、登山道も未整備な奥地にある滝だ。

深いゴルジュの底にあるアプローチ・ルートは、陽も届かず、九月まで雪が消えない。

訪れる人は、もちろん少ない。

黒部マニアの間で静かなブームと聞くが、静かなブームはブームといわないから、傍流である。

傍流っぷりを象徴するかのように、長野に着いたら雨だった。アウトドアの主流になりえない天気。

トイレに対する扱いが必要以上に冷たいのも、因縁に思えてならない。


黒部ダム展望台入口

扇沢から黒部ダムまで、トロリーバスで行く。

往復2200円・乗車時間は計28分。新幹線なみに高い。

走ってる間中ずっと、車内放送が途絶えない。黒部ダムや立山黒部アルペンルートの歴史などを語ってくれるのだ。プロジェクトXを観てから行けば楽しかろう。

バス停を降り鉄扉を開けると、黒部ダム上部だ。

天空の大要塞のたたずまいで、一見の価値はある。よりラピュタを彷彿としたいなら、観光客の少ない今の時期が、いちばんねらい目である。静まりかえっている。

観光放水はまだ始まっておらず、川の瀑音もここには届かない。

約20分、キックステップでほいほい降りて、黒部川とコンタクト。


滝

川辺は、五月にしては驚くほど雪が少ない。といっても、半分以上は雪渓の下だ。

ゆうべの雨が嘘のように、水は澄んでいた。そこに河岸の新緑。スノーブリッジ下縁の蒼い陰。

登山客は誰もいない。

観光地ズレした北アルプスにあって、マニアックな場所に来てよかったな、と思わせる風光明媚。

傍流が優位に立つ。

快調に、下流を目指す。渡渉もあったが、はしゃぎながら渡ったりして、平和なもんだった。

このときは、帰りにどんな怖い目に遭うか、まだ知らない。


行者ニンニク

今夜は、天然の行者ニンニク畑で、ジンギスカンを食べるのだ。

普通のニンニクと違い、葉の部分を食べる。しかし、八百屋で売ってる「ニンニクの芽」とは異なり、香りはしっかりニンニク。それもかなり強烈だ。

畑に足を踏み入れただけで、ニンニク風味に包まれる我が身。歩くだけでよだれが出る。

「今夜はこれをたっぷり嗅ぎながら、肉を食べられるのだ」と考えながらニンニク狩りしてると、腰痛も気にならない。至福の雑用。

スーパーの袋いっぱいにつみ取り、肉といっしょに炒める。

食感はニラ似だが、繊維のじゃまっけ感がずっと少なく、食べやすい。今まで口に入れた野菜の中で、もっとも完璧な歯触りだ。

むさぼり食う。


鬼ワラビ

ワラビも生えていたが、これは「鬼ワラビ」という変種で、食用には適さない。

見た目はうまそうなので、後光の射す美しい構図で、脳に、「これはオブジェなんだ」と認識させないと、つまみ食いしてしまいそうな自分が居る。


キャンプ

枝沢と黒部川が、滝で接した所にテン場を設ける。

周囲は絶壁。水平な台地より垂直な壁の方が、景色の多くを占めている。

テントと黒部川の間にも、河原とかはなくて、いきなり断崖絶壁になっている。水をくみに行くのが面倒くさい。

支点を取って、懸垂下降で川面まで降りて行かなきゃならない。

落ちたら絶対死ぬから、たとえば夜、酔っぱらってから朝飯の水が足りないことに気づいたら、朝はカロリーメイトに変更したほうが良いだろう。

一面、雪渓だらけで寒々しい雰囲気だが、標高は1000mだし、スリーシーズンシュラフで普通に暖かい。

テン場から往復12時間の予定で、剱沢I(アイ)滝に向かう。

こんなに長いコースタイムは、学生時代、広島市内で飲み過ぎて電車賃が無くなり、完徹で東広島市まで歩いたとき以来だ。


雪渓

左右断崖絶壁の谷を、下流へと進んでゆく。主に、沢筋を少しよけた、雪渓の上を歩く。

十字峡までは、一応「日電歩道」という水平道も穿たれているが、沢筋と交差する箇所が、ことごとくデブリで埋まっていて、すんなりは歩けない。

埋まってるだけならアイゼンで超えられるから別にいいんだけど、得てして、崩落寸前のスノーブリッジと化している。始末が悪い。踏んで崩れたら、雪ブロックと一緒に黒部川の藻屑になっちまう。

まず助からないだろう。水冷たいし。

下流に向かう訳だから登りは無いと踏んでいたが、そうでもない。

前述のデブリが、各々、高低差10~20メートルの丘になっているのだ。砂漠の砂丘とかも、きっとこんな理不尽感が漂っているのだろう。

水がくめないのも、砂漠同様。枝沢の水はスノーブリッジの下に潜り込んでるし、黒部川へはとても近づけない。

結局、テン場でくんだ水2リッター、全部飲んでしまった。

そして、砂の混じった雪渓をかじりながら帰ったのが、この合宿中いちばん血が騒ぐ時間だった。


剱沢大滝(i滝)

十字峡から、ザイル2本連結した110mの懸垂下降。さらに、傾斜40度の雪渓を50m降り、剱沢とコンタクト。

大滝の、500mくらい手前で雪渓がぶったぎれてて、それ以上滝に近づけなくなり、そこで引き返すこととなった。

I滝は、頭の部分だけ見れた。

JPEGにしたら消えるんじゃないかと思ったが、一応写ってるな。でも、雪渓と区別つかないよ。

携帯のカメラも、画素数だけやなく、メモリーカードとの転送速度やレンズの性能に凝ってほしい。

そんな、メモリーへの記録時間縮めるためだけに圧縮しまくったら、高画素数にする意味ないやん。


翌日(下山予定日)は修羅場だった。

Yahoo! のトップニュースに出るような豪雨が未明に降り、来る時渡った箇所を、渡渉できなくなってしまったのだ。

「屋久島で、コンテ渡渉、三人死亡」が旬だし、たとえその事実を知らない人でも、びびらせるには充分な水量に思える。清流は濁流に変わり、水深は50cm以上増している。

「こりゃー渡れないですよ。絶対死にます。仮にいま雨が止んでも、元の水位に戻るのは5時間後ですし、今日はもう帰れない覚悟でいてください」

とリーダーさん。

「私、明日から会社なんです。どうなるんでしょう?」

「会社?? 命あっての物種でしょう。諦めてください」

赤痢とかに感染したことにすれば、2日くらいは何とかなるだろうが、それでも無断欠勤は大いにまずい。ここは携帯が圏外なのだ。

10mm/hourくらいの、けっこうな降りようだ。水位は減るどころか、どんどん増水していっている(一目瞭然なのがなおさら怖い)。

雪渓

じっとしてると寒いので、とりあえず、内蔵助沢を詰められるだけ詰めて、渡れる箇所がないか探すことにした。何ならこのまま内蔵助平まで行っちゃったらいいんでは、という勢いがあった。

雨の中、藪の急斜面を高巻きを続ける。(内蔵助沢の左岸には道がない)

イバラとかが全然ないただの灌木ヤブだったので自分的にはまったく平気だったのが、不幸中の幸いだ。

ワンゲルで経験しといて良かった。

2時間くらいかけて、直線で200mくらい高巻く。藪でつかまる所は多いけど、落ちたら川で冷凍され即死だろう。呪怨やドーンオブザデッドより怖い。

ぶるぶる震えながらこぎ続けていたら、突然、藪の向こうに雪渓が見えた。

まだ部分的に視界が隠れ、よく見えないが、なんとなく、右岸左岸がつながっているように見える。

スノーブリッジさえあれば、対岸に渡れる。

「おーー、これはひょっとして!!」

リーダー氏から歓声が上がる。そして10秒後、

「やったぜ。これは100%渡れるよ。今日帰れる! よかったなぁー、おい笠井さん」

岸と岸をしっかり結ぶその雪渓が見えたとき、年に何度も味わえない大きな感情が、血流のように、胸から咽へせり上がり、私は目頭が熱くなった。

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