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釜島の電柱

瀬戸大橋のたもと、周囲2kmの小島である。

かつて人が住み、小学校も設置されていたが、ここ10年は無人だ。とはいえ、生活道、家屋、神社、お墓など、まだ生々しく残っており退屈はしない。というか、したくてもさせてくれない。

山と違い、迎えの船が来るまで逃げ出すこともできない無人島。発狂ギリギリで好奇心が満たせる、一粒で二度おいしいスポットを、はりきってレポートしたい。

児島~釜島

タコ料理で有名な児島の町から、チャーター船で南東へ20分。交通の便は良い。往復1万円/隻が相場だが、交渉の余地もある。

帰りは、迎えの時刻を打ち合わせておくか、緊急なら携帯で来てもらう。DoCoMoは、FOMAもMOVAも通じる。AUとVodafoneはわからない。

釜島・船着き場

西岸の船着場から上陸できる。

船長さんには庭みたいな所だから、東経何度何分何秒とか、細かく指定する必要はない。大船に乗った気分で待とう。

風化した桟橋は、足下の羽目板が何枚か抜け落ちており、女性であれば、カメラ小僧の存在が気になる箇所だ。

末端に、破棄されたボートが係留されている。

飛び乗って釣りなど勤しむなら、船酔いに注意しよう。穏やかな瀬戸内海とはいえ、近くを船舶が横切ったりすると、1メーターくらい上下に揺れる。

ゲロで魚をおびき寄せる古典も捨てがたいが、釣って食べる時のことを考えれば、厳に慎みたい。

釜島・ゴミ

まず印象深いのが、多量のゴミだ。

空き缶、ペットボトル、傘の骨、クーラーボックス、ビーチボール、配水管、ポリタンク、自転車、コンドーム等、日本近海で見られるゴミ・全種類を網羅している。

風化しまくって無臭なのが、不幸中の幸いだ。

釜島

とはいえ、「無人島の、澄みきったプライベート・ビーチ」をあてこんで来ると、落胆するだろう。

砂浜にも時々、ガラス瓶の破片が落ちていて、油断ならない。

釜島から見た瀬戸大橋

新婚旅行とかで訪れるなら、ゴミの目立たない夜間に上陸するとよい。

瀬戸大橋のライトアップもキレイなので、目を奪われているうちに、海岸から離れよう。

島の中心部は、比較的、掃除が行き届いている。

西岸と平行する樹林帯の、向かって左から数えて二本目の電柱あたりから、島の奥(東)へ道が延びている。幅1メートルに満たぬ、登山道のようなたたずまいである。

取り付きは、軽い登りだ。背丈の少し上を、深緑の葉をぎっしりたたえた灌木が、トンネル状に覆う。

これを100メートルほど進んだ右手に、平坦な草むらがある。草ぼうぼうだが、柔らかいので、テント張るのに支障はない。今夜はここに泊まる。

茂みを見送ってさらに300メートルほど歩くと、かつて民宿だった家屋が現れる。

ここは、屋根・柱の傷みが激しい。割れている窓ガラスもある。危険なので、中には泊まらないほうがいい。ただし庭にテントを張るのは快適な選択肢だろう。どちらにしても、テントは必携の島だ。

ちなみに水場も一切無いので、ペットボトルで多量に持ち込まねばならない(重要)。

釜島の廃屋

この島は、横溝正史の小説・「悪霊島」のモデルとなった場所と言われている。

その事実を知っているのと知らないのとでは、廃屋から受ける印象もずいぶん変わる。誰かをこの島に招待する場合、そのへんの情報操作は厳密にやっとかないと、後々まで恨まれることとなる。

とはいえ、こんなオブジェが目白押しである。

たとえ知らせなかったとしても、だいたいの招待客は、あなたが騙したことに薄々感づくのではなかろうか。

テント上のトカゲ

小動物にも事欠かない。

アウトドアでこういう生き物が出るのは至極当たり前だが、怒濤の心霊スポット責めで精神が参っていると、たかがトガゲでも、必要以上に怖く感じるものだ。

このトカゲひょっとして何かの化身? と一旦気になりだすと、尻尾を切って鶏の餌付けに使うとかのお茶目もためらってしまう。

同行者が爬虫類嫌いだと、人間関係に亀裂が入りかねない。「こんな所に連れてきやがって」と、あなたの全人格を否定しだし、目は涙目、手指は蒼白。民事訴訟にもつれこむ可能性も。

アウトドア年長者として、余裕を持って逆ギレしたい。「あんた浦安でネズミに抱きついてただろう」

墓

無人島だが、静まり返ってはいない。海鳥のいななき、梢のこすれ合い、船舶のさざなみが、いつもどよめいている。

この不協和音は、人間、それも幼い子供の声に、実に良く似ており、とても不気味である。

釜島の洞窟

時々、意味のある日本語に聞こえてしまうことがある。「来て」とか。「見たよ」とか。

夜に聞くと、なおさら大変。トイレに行って、立ち小便だけのつもりが、ショックで脱糞しかねない。

泥酔することしか対策が思いつかない。

釜島からの帰路

恐怖の一夜が明け、「光がこんなに有難いなんて」と、感謝する。

しかし、地元の某高校は、課外授業として、ここへ毎年キャンプに来ているとのこと。心身最強のアウトドア人間が巣立つことだろう。いつか会えるのが楽しみだ。

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© 2005 Takafumi Kasai ()