くもり
- ■行程
- 親不知観光ホテル前-1:16→入道山-0:34→ロード出合い-0:42→尻高山-0:35→坂田峠-1:01→シキ割-1:22→白鳥山山頂小屋 [5:30]
- ■コース概説
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夜行列車でのアプローチは疲れるので、前日は、登山口の目の前にある「親不知観光ホテル」にでも泊まって鋭気を養うといいだろう。
始めから終いまで、ずっと樹林帯の中をゆく。異次元空間を通じて広島の山に迷い込んだんじゃないかと錯覚する景色が延々続く。到底北アルプスの一部とは思えない。
ただ、道の整備はよく行き届いている。倒木に行く手を阻まれ這って前進したり、イバラやススキで足が血まみれになったりすることはない。このへんが広島の山とは違う。
親不知海岸から朝日岳に至るこのコースは「栂海(つがみ)新道」と呼ばれる。「さわがに山岳会」という、たった数名(詳しい人数は知らない)の会によって開拓され、毎年定期的に整備が行われているそうだ。梯子あり、ロープあり、看板あり、キレイな水場ありと、相当完成度は高い。ここまでやる執念には恐れ入るね。
しかし、このコースの存在意義は、「海抜0メートルから出発した(あるいは到達した)」という満足感を得る以外全く無いと言っていいから、ただ単純に白馬、朝日に登りたい場合、白馬大池や蓮華温泉から入ったほうが絶対楽しい。逆に言うと、何も考えずにここに来てしまうのは、苦痛以外の何物でもない。
- ■電話
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親不知観光ホテルの前で、三度笠を被った化け物のような人形が電話機を背負っている。カードとコイン併用。
- ■水場
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「シキ割」にある。鉄製の赤いヤカンからチョロチョロと水が流れ出ている。水量は少ない。
- ■幕営適地・小屋
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同じく「シキ割」にある。6テンなら2張りが限度。ただ、こんな所で張る奴がそうそう居るとは思えないから、埋まってたらどうしよう、なんて事は考えるだけ無駄だ。
小屋は、白鳥山の頂上にある。無人だが、築3週間だけあってキレイだった。ただ、焼け落ちる前のやつの方がかっこよかったらしい。
宿泊は無料。近くに水場はない。小屋の中では火の使用禁止。
- ■その他
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- JR青海駅から登山口までは、小型タクシーで3150円。
- 栂海新道の登山口は、海岸線から直線距離にして約50メートル、標高差にして約30メートル程度離れている。だから、「海抜0メートルから出発した!」あるいは「到着した!」という達成感を得る為には、さらに往復10分を費やさなくてはならない。
晴れ→曇り→雨
- ■行程
- 白鳥山頂小屋-1:43→1209.8(菊石山)-1:47→栂海山荘 [3:30]
- ■コース概説
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昨日に続きずっと樹林帯。ただ、犬ケ岳に近づくにつれ、時折、吹きさらしの個所が現れる。日差しも強いが風も強くなって、暑さに狂った身体に心地よい。
コース上に特に危険なところはないが、犬ケ岳は、「見えてからが長い」。これは犬ケ岳に限った話ではなく、北アの山は大体がそうだ。その前哨戦と言ってよいだろう。
登山者の数は少なく、静かな旅を満喫できる。一番うるさいのは自分の独り言であった。「畜生」およびそれに類する言葉は、3桁は言った。荷物が重いのだ。水場の水量は豊富なので、水歩荷する量は最低限に押さえておきたい。
小屋からちょっと足を延ばして、犬ケ岳に登れば展望が開ける。
- ■電話
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公衆電話はない。白鳥山から携帯電話(NTT DoCoMoデジタル800MHz 以下同じ)が通じる。
- ■水場
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1209.8(菊石山)すぎの鞍部を東に3分ほど行くと沢があり、そこから汲める。鞍部には水場を示す看板もあるので、場所はわかりやすいだろう。沢の手前は、落差2メートルくらいの崖になっており、ロープが残置されている。だからポリタンは手に提げるのではなく、サブザックに入れて行くことを勧める。
- ■幕営適地・小屋
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水場へ分岐する鞍部の西側にテン場がある。キャパシティは、6テンなら3張り位。深い森の中に位置する。
小屋は、犬ケ岳の手前に建てられた「栂海山荘」が利用できる。外観は、JR九州の特急「ハウステンボス」みたいで派手だが、中は地味。無人で、宿泊はタダだ。
屋根裏には鼠が棲んでいるので、食料の管理には細心の注意を払うべきである。
トイレは、小屋から30秒くらい離れたところにある(「キジ場」の看板を目印に・・・)。崖の先端からスノコが張り出しており、そこに座って用を足す構造。ブツは、スノコ越しに遥か崖下に落下する仕組みだ。ここから滑落したら伝説の人物になれることは確実。一応登山道からは死角になっている。
- ■その他
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距離的には短い1日だが、アップダウンが激しいので疲れる。
大雨→霧→晴れ→曇り
- ■行程
- 栂海山荘-0:08→犬ケ岳-1:10→1612.3(さわがに山)-1:13→1623.6(黒岩山)-0:03→小滝への分岐-2:26→長栂山-0:41→蓮華温泉への分岐(吹上のコル)-0:31→朝日岳-0:34→朝日小屋 [6:46]
- ■コース概説
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コースの雰囲気が途中、2回大きく変化する。
まず、小屋から1623.6(黒岩山)の間は、密度の薄い樹林帯になっている。芸北の山のような所だ。アップダウンがほとんどなく、昨日までとうって変わって距離が稼げる。自分がここを通ったときは、天気がにわか雨で、視界が全く無かったため、眺めはいいのかどうか分からない。靴の中がグショグショになった位しか思い出がない。
次に、1623.6から先、長栂山手前の標高2000メートル地点までの一帯には、湿原が広がっている。高山植物の咲き乱れる原野と、そこに点在する池沼。これが昨日の雨で増水し、登山道が冠水しちまってる。「高山植物保護のため、歩道以外は歩かないようにしましょう」の看板が目にしみるが、背に腹は替えられない。トレースを新たに刻んで進んでしまう。このへんから、ようやく北アらしい光景が現れ始める。晴れていればすがすがしく、雨でガスでも幻想的だ。景色が一級品だけに、どんな悪天候下でも十分観賞に耐える。
最後に、長栂山〜朝日岳〜朝日小屋の部分。植物の存在は希有となり、地面の大部分が瓦礫、砂礫に変わる。風を遮るものが無いので、体感温度が急に下がる。鼻水もたくさん出る。
栂海新道は、朝日岳で終わる。そしていよいよここからが北アの核心部だ。「やっと広島の山から脱出できたぜ」と誰もがほっとする瞬間だ。
- ■電話
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朝日小屋にある。カード・硬貨の併用。
- ■水場
- 犬ケ岳すぎの鞍部(標高1500メートルの等高線と縦走路が交差する個所)から、南西に延びる谷を少し下りた所に一ケ所。鞍部に、水場を指し示す看板がある。
- 1623.6(黒岩山)すぎの分岐から、県境との交差点までの区間には、登山道と並行して沢が流れているのでそこからどうぞ。
- 朝日小屋には水道がある。無料。
- ■幕営適地・小屋
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物理的に幕営できる個所は数多いが、キャンプ指定地の朝日小屋以外で張ると罰則を食らう。朝日小屋まで行くしかない。ここから先のコースも、下山するまでずっと、指定地以外での幕営はご法度だ。
朝日小屋での幕営はひとり500円。水場とトイレ付き。朝日小屋は有人。
- ■その他
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湿原地帯は、このあと10日位お目にかかれないので、しっかり酔いしれて写真を撮っておくとよい。
4日目(8月8日)/朝日小屋〜雪倉岳〜白馬岳頂上宿舎
ガス・小雨→晴れ
- ■行程
- 朝日小屋-1:12→朝日岳への分岐-0:35→燕岩(赤男山の南西斜面の崩落地)-1:53→雪倉岳-0:25→雪倉避難小屋-0:45→蓮華温泉への分岐-0:53→三国境-0:40→白馬岳-0:10→白馬山荘-0:08→白馬岳頂上宿舎 [6:41]
- ■コース概説
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後立山連峰で最も標高の高いエリアだ。朝日岳、鉢ケ岳の両トラバースを除き、瓦礫の荒野を歩く。展望はもちろん素晴らしい。剱立山や、運がよければ槍ケ岳まで見える。
見通しが良い分、風も強い。たとえ昼間であっても物凄く寒い。鼻腔の奥がむずむずしてくる。それは程なく刺激的な感覚に変わり、鼻から息を吹き出す度に鼻水がだらだらべちゃべちゃ流れ出てくる。のべつ、くしゃみが飛び出すようになり、周りの登山者からは「兄ちゃん、大丈夫?」「薬持ってる? 今夜はあったかくしなきゃダメよ」などのねぎらいの言葉がかかるようになる。とりあえず悪天候時の行動は楽しくないので慎もう。登山ではなく苦行じみてしまう。
苦行じみる原因としてこの他に、高低差が大きいことが挙げられる。雪倉への登り、三国境への登りで、かなりの体力を消耗するであろう。ここは、地図上では直線だが実際はジグザグ道で、なかなか距離が伸びないのである。精神的にも疲れる。とにかく、「見えてからが長い」。下を向きながら口ずさめる長い歌のひとつでも覚えておくと心強い。
昨日までと較べ、登山者の数は随分と多くなる。三国境から先は、白馬大池から来た家族連れ、団体客が目立つ。写真を撮ってもらいたい時、周りに誰もいなくて困る心配もこれでなくなる。景色が非日常的になってきているので、きっと写真は撮りまくるよ!
- ■電話
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白馬山荘、白馬岳頂上小屋にそれぞれ1台ずつ、カード・コイン併用の公衆電話がある。人が多いのに台数は少なく、いつも混雑している。
電話を使おうして列に加わると、ひとつ前に並んでいる男が、彼女と延々ノロケ話を始めたりして、なかなか順番が回ってこなくなる。
「ああ、俺。俺だよ。いま白馬にいるんだ。どう、元気? え、ああ、俺なら大丈夫、元気ぴんぴんさ。身体は平気。でも、君と逢えないのが辛いよ。うん、もちろんさ。今度は絶対一緒に来ようね、愛してるよ」などと大声でまくしたてる。男と事務的な連絡をするために並んでいるぼくは腸が煮え繰り返る。受話器のコードで首を締めて、口から泡を吹かせ、唇を紫色に変えてやりたくなる。
ちなみに携帯は通じない。
- ■水場
- 朝日岳をトラバースするルートが途中3回、沢と出合う。そこで水が汲める。
- 白馬頂上宿舎の近くに大きな雪渓があり、その融雪水を利用できる。タダ。
- ■幕営適地・小屋
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幕営は、白馬頂上宿舎で受け付けてもらえる。ひとり500円だ。大規模な小屋と対照的に、幕営地は小さい。早めに行かないと、いい場所をとられちまって色々苦労する。
小屋は、(1)雪倉岳避難小屋、(2)白馬山荘、(3)白馬岳頂上宿舎の3つ。(1)は、無人の小さな小屋で、寝る以外のことは何もできない。連日の強行軍に疲れたら、ここで日を区切るのもいいかもしれない。(2)(3)では、ホテル並みの、贅を尽くした施設が利用できる。金を持っていればの話だが。
- ■その他
- 土日に来ないほうがいい。
5日目(8月9日)/白馬岳頂上宿舎〜鑓ヶ岳〜鑓温泉
快晴
- ■行程
- 白馬岳頂上宿舎-0:39→杓子岳への分岐-0:13→鑓ケ岳手前の鞍部-0:29→鑓ケ岳-0:18→鑓温泉への分岐-1:03→鑓温泉 [2:42]
- ■コース概説
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稜線上は、昨日と同じで瓦礫の道が続いている。よって相変わらず風が強く、昨日は平気だった人も風邪を引き、昨日風邪を引いていた人は風邪をこじらせ、昨日風邪をこじらせていた人は死んでしまう。
杓子岳には、稜線通しに登るルートも設けられており(また反対に、下りるルートは稜線でなく斜面に設けられている)、登る人と巻く人と半々位だ。ぼくは、鑓ケ岳からの眺めも同じ様なものだろうと思ったので、巻いて進んだ。
鑓からの展望は予想通り良かった。が、鑓自体の山様も格好いい。「山に登ると、その山の本当の姿は分からなくなる」とはよく言ったもので、鑓ケ岳はこの言い廻しが的を射る一座である。
鑓温泉への分岐を過ぎると、風はぴたりと止む。今度は暑さに身体をやられてしまう。体調が崩れる。まるで、クーラーと都市熱にやられる夏風邪だ。
意外とあっけなく鑓温泉には着く。ただし調子に乗ってスピードを上げ過ぎると簡単に捻挫するので注意。実際、鑓温泉で、「そこの下りで捻挫して、これ以上歩けなくなってしまった。家族に連絡したいので携帯を貸してもらえないか」とある中年夫婦から頼まれた。
鑓温泉の露天風呂は、眼下一面に雲海を望みながら入浴できる。これ程視界の利く露天風呂も珍しいだろう。開放的な雰囲気で、とても気持ちがいい。
ただ、その分登山道からも丸見えだ。猿倉からここに登ってくる場合、風呂を進行方向に見据える格好になるので、登山者は、入浴客の裸体を見ながら歩く羽目になる。見るほうにとっても、見られるほうにとってもこれはつらい。女子大ワンゲルがここを通る時の光景など、残酷すぎてちょっと見ていられない。半泣きになっている。
- ■電話
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鑓温泉には電話がない。ただし、山小屋にバイトに来ている人達の私物携帯があるので、頼めば貸してくれるかもしれない。携帯は通じるのだ。
前項で書いた中年夫婦が、(多分小屋の経営者の)オヤジに、「電話ありませんか?」と尋ねたところ、オヤジは「ないよ」とだけぶっきらぼうに答え、私物携帯の存在は知ってるはずなのに教えてあげてなかった。かなり感じが悪い。
- ■水場
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- 鑓温泉には水道があり、無料で利用できる。
- 鑓温泉の少し上(標高2200メートル付近)で、登山道が沢と接している個所が何ケ所かあり、そこで汲める。
- ■幕営適地・小屋
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鑓温泉に幕営できる。500円。テン場からも露天風呂は直視でき、露天風呂はテン場よりも一段高くなっているので、さながらライブハウスのステージと観客の関係だ。
鑓温泉小屋は有人。白馬登山の前線基地として、活気にあふれている。
- ■鑓温泉について
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- 温泉に入るには、入浴料が必要。ひとり300円を、予め小屋に支払う。
- 温泉が開けっ広げだと散々書いたが、ちゃんとプライバシーの保たれた女湯が別に用意されているので、女性の方もご安心ください。開けっ広げな方の露天風呂も、夜9時から10時(8時から9時だったかもしれない)は女性専用の時間帯となるので、安全だと思う。スターライトスコープとか使われたら知らない。
- ■その他
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小屋で冷えたビールを売っているので、温泉に浸かってビール、という贅沢な時間も或いは過ごすことができるだろう。しかし、金のない大学生には、震えながら缶ジュースを1本だけ買い、そいつをちびちび啜るのが関の山であった。
6日目(8月10日)/鑓温泉〜不帰キレット〜唐松小屋
快晴
- ■行程
- 鑓温泉-1:52→鑓温泉への分岐-0:20→天狗山荘-0:28→天狗の頭-0:19→天狗の大下り最上部-0:42→最低鞍部-2:06→唐松岳-0:10→唐松小屋 [5:57]
- ■コース概説
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後立山連峰の中では、難しいコースに属するだろう。天狗の頭を約1km過ぎた地点から「不帰キレット」と呼ばれる岩稜帯が始まる。今日一番の難所であり、同時に今日一番の楽しみ所でもある。
最初の急降は、「天狗の大下り」と呼ばれる名所だが、これはただの坂なので特に身構えることはない。降り始めに1ケ所、鎖場もあるが、全然恐くないよきっと。
最低鞍部を過ぎてからが核心部だ。5万分の1の地形図を見る限りでは、それほど急な登りがあるようには思えないが、細かいピョコや急登が立て続けに行く手を阻み、ことのほか息が切れる。
最低鞍部の次のピョコを乗り越えると、鎖場が現れる。人の往来が激しいので、渋滞は日常茶飯事だ。ひどい時には、動いている時間より、止まっている時間のほうが長くなってしまう事もある。
途中何ケ所か、垂直に近い岩場も現れる。ただ、ペイントに従って進んでいる限り、危険な部分に迷い込んだりは「絶対」しない。身体の周りをちょっと捜せば、しっかりしたホールドとスタンスが無数に散らばっているので、進むには苦労しない。浮き石の類は、山岳パトロールの方々が定期的に始末しておられるので、無理に引っ張ったりしない限り、落石もそうは起こらないだろう。つまり、巷で言われる程に恐い所じゃない。
むしろ、唐松山荘のテン場を心配したほうがいいだろう。
- ■電話
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唐松山荘に、カード・硬貨併用の公衆電話が1台ある。天狗山荘に関しては、中に立ち入らなかったため委細不詳。
- ■水場
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- 天狗山荘の脇に、陸上の400メートルトラック位の大きさの雪田があって、この融雪水が利用できる。無料。
- 唐松山荘では水は有料。1リッター200円で販売している。小屋の広報では、「煮沸しないと飲めません」と言うているが、ミネラルウォーター(500ミリリッター350円)を買わすための作戦だと思う。ぼくは飲んでも何ともなかった。
- 1リッター200円という値は、北アで一番高い。持ってる水の量に余裕があるなら、買うのは次の五竜山荘まで我慢しよう。
- ■幕営適地・小屋
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天狗山荘と、唐松山荘に幕営地がある。ともに一人500円。
唐松山荘のテン場は大変な所なので、注意せねばならない。山荘から祖母谷に向かうジグザグの下降ルートの脇に、ポツポツと空き地が設けられているのだが、これが約30メートル毎に1つの割位でしか設けられていない。当然、それらは先着順に上の方から埋まっていくから、到着時間が遅いと最悪だ。最大で小屋まで片道10分は必至である。トイレは小屋にしかないし、往来の激しい道なのでキジは撃てないであろう。だから、足腰とか括約筋の弱い奴は、今日はいささか早すぎるくらいに到着できるようスケジュールを組むべきである。
ちなみに北アルプスには、もっと小屋とテン場が離れている箇所もあるが、これ以上遠くなると、わざわざ小屋に用を足しにいったりしなくなる。
- ■その他
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この日、単独行(朝日〜鹿島槍をテント泊らしい・・・)している女子高生に会った。「絶対、山ケイに載れるよ」と、ぼくは彼女にアドバイスをした。
7日目(8月11日)/唐松小屋〜五竜岳〜キレット小屋
ガス
- ■行程
- 唐松小屋-1:43→遠見尾根分岐-0:04→五竜山荘-0:50→五竜岳-1:06→赤抜-1:20→キレット小屋 [5:03]
- ■コース概説
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寒々とした不毛の岩稜帯を行く。ガスっており展望は全くなかったが、稜線の躍動する様を見ているだけでも充分楽しい。もっとも、同じ景色がずっと続くので、マンネリ化してくるかもしれないが。
10カ所ほど鎖場もあるが、ペイントは多いし岩も安定しているので、滑落の危険は少ない。このコースで最も気をつけなければならないのは、疲労凍死だろう。途中、雨露をしのげる場所が全くないからだ。強風のもと雨に叩かれたりしたら、3時間耐えるのは結構な荒行に違いない。
キレット小屋には幕営地がないので、沈を置くと結構な出費を強いられる。懐を心配するあまり沈を置かずに強行、結果遭難、なんてことにならんように、突入する時は天候をよく見極めるべきである。
昨日までと較べ、登山客の数はめっきり少なくなる。単独行だと、話し相手がますます少なくなって目茶苦茶寂しい。
キレット小屋のちょっと手前に、「小ヤまで50M」と書かれた看板が建っている。これを見て「ああ、もうちょっとじゃん」と思っていると裏切られる。どう見ても300メートルはある。50メートル行っても全然小屋が見えて来ないので、MはMinuteの事なんじゃないかと不安でしょうがなかった。
- ■電話
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五竜山荘に、カード・コイン併用の緑色の公衆電話がある。そんだけ。
- ■水場
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- 五竜山荘の水は、1リッター100円と激安だ。小屋の玄関右手に流し台があって、蛇口をひねるとチョロチョロと水が流れ出てくる。代金は、脇の缶に入れる。ぜひ大量に買い込もう。
- キレット小屋は、宿泊客以外には水を売ってくれない。宿泊客には2リッターをタダでくれる。ここに限らず、小屋に泊まった場合は、水をある程度の量、タダでもらえることが多い。
- ■幕営適地・小屋
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五竜山荘に幕営地がある。幕営地はここだけ。五竜山荘のカウンターで取り扱っている商品は、牛丼800円、うどん600円、ジュース400円、あと味噌汁、コーヒー、紅茶など。
小屋泊まりなら、五竜山荘とキレット小屋が利用出来る。キレット小屋は木の香りがしてて夜は安眠出来る。トイレも奇麗だ。トイレには洗面所も付いているが、岩清水のような出方なので、指先を湿らすのが精一杯だ。
キレットの奥深くだからジュース類も高いかな、と予想していたが、他と変わらなかった。
小屋の食堂は、食事時間帯以外は談話室として解放される。マンガが一杯置いてあって暇つぶしに最適。「ナニワ金融道」が全巻置いてある山小屋は、日本中でここぐらいのものだろう。
自炊には自炊室を使う。
8日目(8月12日)/キレット小屋〜鹿島槍ヶ岳〜冷池山荘
大雨+雷強し
- ■行程
- キレット小屋-0:37→北峰・南峰間の鞍部-0:05→鹿島槍ケ岳北峰-0:04→北峰・南峰間の鞍部-0:23→鹿島槍ケ岳南峰-0:26→布引山-0:36→冷池山荘 [2:11]
- ■コース概説
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靴の中が水で満たされてしまう天気だったので、個人的にはちっとも楽しくなかった。私情を殺して客観的に書くならば、次のようなコースであろう。
鹿島槍の登りは、ただの急登なので技術的には問題はない。ただ、コース上に小石がたくさん転がっているので、人為による落石が多い。常に上方の登山者、そして自分の足元に気を配らねばならない。
鹿島槍は双耳峰で、北峰、南峰という2つのピークを持っている。国土地理院の地図では、北寄りの方は「南峰」、南寄りの方は「北峰」と銘打たれている。一方、現地の看板、案内板ではその逆、つまり北寄りのが「北峰」、南寄りのが「南峰」と記されている。後者の表記の方が実を表していていいかな、と考えるが、あなたどう思いますか。
北峰・南峰間鞍部の東側にある緩い斜面に、巨大な雪渓が残っていた。ひょっとすると採水できるかもしれない。ピーク間のコースは、稜線のやや東側(1メートル位下)を走っており、風が弱く快適だ。
南峰(地図上では北峰)を越えてからは落雷がはじまったのでますます客観性を欠くが、なだらかな稜線をまっすぐ下ってゆく。落雷が怖くて走っていたので、この部分のぼくのコースタイムは当てにしない方がいい。冷池山荘が近づくと、林の中へと道は入り込んでゆく。風は弱まるが、ぬかるみが激しくて歩きにくい。
小屋の700メートル位手前がテン場になっている。林の中をさらに歩くと、小屋がヌッと視界に入る。小屋は黄金の御殿。
- ■電話
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冷池山荘に、カード・コイン併用の公衆電話がある。落雷の危険がある時は、アンテナを撤収してしまうので使えない。これも、ここに限った話ではないだろう。
- ■水場
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冷池山荘で、リッター150円で売っていたと思う。買わなかった(雨水を飲んでいた)ので正確な値を知らないのです。
- ■幕営適地・小屋
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冷池山荘の幕営地は、「小屋から離れている」「吹きさらし」「トイレがない」と欠点が多い。特に「吹きさらし」は悪天時には死活問題で、小屋に泊まらせる為にわざとこんな所に造ったのではないかと勘ぐってしまう。
稜線上の幕営地から、東側の斜面を覗き込むと、10メートル程下った所に、ちょっとした平坦地があるのが目に入る。ここは結構な穴場だ。風は当たらず、落雷の心配も比較的少ない。ハイマツをかき分けて至る事ができる。もちろんぼくはここに張った。6テンなら2張り位までいける。
冷池山荘は、「受付の女の子がかわいい」「乾燥室に石油ヒーターが備わっている」「喫茶店がお洒落」「いろんな人と知り合いになれて、差し入れを腕にひと抱え分も貰った」といいことばかりだ。
- ■その他
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- 展望と、穏やかな陽気があってこその日本百名山である。
- 冷池山荘の喫茶店に、「山ケイ登山学校シリーズ」の表紙の原画が飾られていた。あれって、ここのご主人が描かれたんだろうか。
大雨
- ■行程
- なし(停滞)。何もする事がない
- ■メモ帳より抜粋
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3時起床するも、雨が酷すぎる。これ以上体や装備を濡らすと回復不能になると思い、再び寝る。7時再度起床。すると何と雨が止んでいる! やった、出発できるかな。と思って朝飯を食っていたら、その間に再び土砂降りに変わる。やってらんねえ。9時10分の天気図を取ってみると、北陸から中国地方にかけて、梅雨前線がだらりと伸びている。やってらんねえ。続いて天気予報を聴くと、明日の朝まで大雨、所によって雷を伴い強く降るらしい。やってらんねえ。沈を決めこむ。アーモンドチョコを噛って再び床についた。
- ■沈思録/ひとりしりとり・テーマ=山
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山→マット→トッペ→ペンライト→トップ→プリムス→ストーブ→ブス→スープ→プッシュホールド→ドーム→ムーンライト→トレース→スニーカー→カメラ→ランプ→プラム→無人小屋→ヤッケ→携帯電話→輪かんじき→キジ→ジッヘル→ルート→トレール→ルックザック→靴→ツェルト→トイレ→レスキューシート→トムラウシ→シール→ルンゼ→ゼリー→リードハイマ→マッチ→地図→隧道→ウールシャツ→爪切り→リップクリーム→虫除けスプレー→レインコート→トレーナー→ナイロンシャツ→つまみ→ミンクオイル→ルーペ→ペグ→茱(ぐみ)→水場→バリエーションルート→鳶→ビンディング→グローブ→ブッシュ→雪
雨→ガス→晴れ
- ■行程
- 冷池山荘幕営地-0:04→冷池山荘-0:14→大谷原への分岐-0:39→爺ケ岳トラバースとの分岐-0:06→爺ケ岳-0:35→種池山荘-1:00→岩小屋沢岳-0:25→新越山荘-0:30→鳴沢岳-0:38→赤沢岳-1:09→ズバリ岳-0:29→針ノ木岳-0:30→針ノ木小屋 [6:19]
- ■コース概説
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久しぶりの長いコースだ。「熊が出る」と、冷池や種池で散々脅された。出るとしたら、種池〜新越山荘間の樹林帯だろう。ここらへんは、広島の武田山くらいに深い樹林帯で、身を隠して獲物を狩るにはうってつけの地形だから、運が悪いと出くわしてしまう事だってあるだろう。小屋でカウベルを売っているので、買って身に付けるか、セオリー通りラジオをつけっ放しにするか、歌を歌いながら歩くかすると良い。
新越山荘を過ぎると、また元の岩稜に戻る。そんなに荒々しくはないけれど。
赤沢岳から、恐怖のアップダウンが始まる。俺は一体何をやっているのだろう、と誰しも疑問を抱くに違いない。急登、急降、急登、急降、そして再び急登。道幅が広いので落石などの危険はないが、ペース配分を間違えると途中で絶対バテる。針ノ木小屋のテン場が少ないから早く行かないと、などと焦ると元も子も無い。
針ノ木岳には常に人が多い。朝方は渋滞する事もあるらしい。
- ■電話
-
そういえばどこにも無い。
- ■水場
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新越山荘ではリッター150円。針ノ木小屋では、リッター200円で売っている。後者は高いので、新越で買っときたい所だが、止めといた方がいい。新越から先はアップダウンが強烈なので、リッター50円位の差額なら、身軽で行ける方が遥かにメリットが大きいのだ。
種池山荘にも売ってたと思う。
- ■幕営適地・小屋
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幕営は、種池山荘と、針ノ木小屋でできる。針ノ木の方は、場所指定制、つまり、申し込み時に「この場所で張って下さい」と決められる。自分の持っているテントの大きさによって、割り当てられる場所が変わる。急な斜面に棚田のごとくテン場がちりばめられているので、移動に思わぬ苦労を強いられるかもしれない。
自分のテントの上方にある石は、あらかじめどけておいた方がいい。夜中にトイレに起きだした登山者とかにうっかり落とされたりしたら、テントに穴が開く。
ここのトイレは、崖っぷちから張り出した天空の城だ(そんなに高度はないが)。すなわちケツの下の方の眺めがすごく良く、身がすくんで出るものも出なくなってしまう。
- ■その他
- 熊の糞をよく見かける。未消化の種子とかが混じっている。人間の指が混じってたらどうしよう、と少々不安になった。
くもり→にわか雨
- ■行程
- 針ノ木小屋−0:55→蓮華岳−1:45→北葛岳−1:06→七倉岳−0:12→船窪小屋−0:10→船窪小屋幕営地 [4:08]
- ■コース概説
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北アの中ではマイナーなルートに属する。そのため登山者の数が少なく、道の状態も悪い。岩場で梯子が腐っていたり、道が突然寸断されていたりして思わぬ迂回を強いられる。
特にヤバい箇所は2カ所ある。まず、蓮華岳過ぎの鞍部の直前にある崖だ。無数の踏み跡が付けられており、その大半は、崖に行く手を阻まれて行き止まりとなる。正しいルートを下っている限り、3点確保が必要な箇所を通る必要はない筈なので、もしそんな所を通過しなければならなくなったら、それは道を間違えている。
もう1カ所は、北葛岳過ぎの稜線だ。稜線の東側半分が、縦に真っ二つに切り崩されていて、落ちたらヘリを呼ぶ羽目になる。強風時の行動は慎重に。あと、あまり崖の縁の方を歩きすぎると、その下はオーバーハングだったりして足を踏み抜く。とても心臓に悪い。
蓮華岳以外、展望の利く所もそれほどなく、ぱっとしない。親不知から入った場合、もう合宿も9、10日目に入っている頃だろうから、マンネリ化は避けられない。パーティーで行く場合、メンバーが壊れ始めてくるだろう。ぼくもちょっと壊れてきたらしく、嘉門達夫の「ハンバーガーショップ」を延々歌いながら山行していた。すると唐突に、「兄ちゃん、ご機嫌だねえ」と、いつの間にか後ろにいた登山者に声を掛けられ、目茶苦茶恥ずかしかった。
- ■電話
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公衆電話はどこにも無い。北葛岳ピークをちょっと東側に下りた斜面から、携帯が使える。
- ■水場
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船窪のテン場からちょっと離れた所にある。
テン場の奥から、縦走路と直角の方向に道が延びているので、まずそこを進む。南へ南へと進んで行くと、20畳位の広さの原っぱに突き当たる。遭難碑(看板)が建っている。その広場の、進行方向右奥に、ケルンの積まれた土手が見えるので、それを乗り越えて斜面を下る。残地ロープに沿って、コンクリート色をした急な崖を約5メートル下りた所が水場だ。崖の割れ目から、毎秒1リッター位の割合で水が流れ出している。
ポリタンは、手に持つのではなく、サブザックに入れて行こう。往復15分。
船窪小屋で、有料で手に入れる事もできる。
- ■幕営適地・小屋
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船窪小屋の幕営地は、小屋から、船窪岳への縦走路を10分行った所にある。林の中の広場だ。しかし風は強い。
幕営料は、あらかじめ小屋に払っておかないといけない。逆コースから来た場合、払いに行くのがかなり面倒臭いだろう。
船窪小屋は質素な造りだ。中には囲炉裏があって、そいつを取り囲んで談笑、というムーディーな夜が楽しめよう。カレー800円、スパゲティー800円、お茶漬け650円、缶詰500円。電話はない。
- ■その他
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- 船窪小屋の手前にある2509(七倉岳という)から、県境沿いにショートカットできそうに見えるが、ここは通行禁止。
- 船窪小屋で休憩していたら、脇のベンチで食事をされていた方々に、「これでも食えや」と、蒟蒻畑を手渡される。「おお、すげえよ」と思っていると、「じゃ、これも」とリッツが出た。「すごいよ、すごいよ」と喜んでいると、今度はチーズとサラミが出る。柄でもなく神仏に感謝すると更に、とろろ昆布、レーズン、チョコレート、コンビーフ、いちごジャム、マヨネーズ、スープの素が次々と現れる。そのおじさんに後光が差して見えたのは言うまでもない。
テントに入ってから、それらに囲まれて記念写真を撮った。
12日目(8月16日)/(船窪小屋幕営地にて停滞)
未明に大雨→曇り・風強し
- ■行程
- なし(停滞)。
- ■メモ帳より抜粋
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3時に目を覚ましたが、喉の痛み、気象条件の悪さが気になり、今日は定着とする。2沈目。
発達中の低気圧から伸びる寒冷前線の影響が9時頃から強まり、激しい風が吹き荒れた。テントが飛びそう。9時10分の天気図を取っている時、テントが突然半分に押し潰されてしまい、基本等圧線を聴き逃した。
13日目(8月17日)/船窪小屋〜烏帽子岳〜高瀬ダム
嵐
- ■行程
- 船窪小屋幕営地-0:17→針ノ木谷への分岐-0:58→・2459-1:10→・2341-0:48→不動岳-1:02→南沢岳-0:55→烏帽子小屋-0:30→・2208.5-1:05→濁沢出合い-0:25→高瀬ダムのタクシー乗り場 [7:10]
- ■コース概説
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相変わらず登山道の崩壊が激しい。雨で地盤が緩んでいたから、いつ崩れるかと思うと心臓がこわばってくる。
不動岳ピークの手前で、道が一時不明瞭になる。気を付けなければならない。
南沢乗越を過ぎるまでは、展望にはあまり期待できない。不動岳のピーク付近を除き、深い樹林帯が広がっている。北アルプスでなく安芸アルプスを歩いている錯覚に陥るだろう。ひたすら地味だ。その割にアップダウンが酷く、得られる楽しさに見合わない量の体力を消耗する。
南沢岳を過ぎると、開けっ広げでなだらかな稜線が現れる。晴れていれば、かなり見通しは良いはずだ。悪天時は、逆にそれが仇となり、突風と冷たい雨とに、悪魔のような仕打ちを受ける。身を隠す場所が全くないからだ。向かい風だと、3歩進んで2歩下がる。みるみるうちに体力を吸い取られてゆき、「いかん、こりゃまずい。死ぬ」と気付くまでにそう時間はかからないだろう。
稜線からはずれ、烏帽子岳をトラバースする部分では、久しぶりに湿原を目にすることができる。風も幾分弱まる。烏帽子岳への分岐には看板があるので、それを目印にピストンをかけるのもいいだろう。
稜線に回帰し、再び試練の道のりだ。コース伝いに、緑色の太いロープが設置されている。
烏帽子小屋を過ぎ、ブナ立尾根に入ると、風がぱたりと止む。さっきまでの喧騒など遠い昔の事のように思えてしまう。
膝の関節が爆笑する位歩くと、濁沢だ。ここに架かっていた吊り橋は、さきの大雨で流出しており、仮設の丸木橋を渡らねばならない。橋は、長さ10メートル、幅70センチメートル位で、下を濁流が流れているので結構恐ろしい。手すりは付いていない。
ダム湖沿いにもう少し歩くと、高瀬ダムに着く。夏場は、夕方5時位まで、タクシーが数台常駐している。
- ■電話
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烏帽子小屋に、カード、コイン併用の公衆電話がある。
高瀬ダムの管理棟(ダムの堰の南端)の前に、10円硬貨専用の公衆電話がある。
- ■水場
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濁沢に出合うちょっと手前の枝沢から汲める。看板あり。烏帽子小屋で買うこともできる。
- ■幕営適地・小屋
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幕営は、烏帽子小屋の脇、および濁沢すぎにあるキャンプ場で可能だ。後者はさびれている。
烏帽子小屋も、ここ周辺の他の小屋と同じく安普請だ。明治時代から建っていそうなトイレが印象的である。ただ、ぼくの場合、この小屋に着いた時、生命力がMAXの10パーセントを切っていたので、御殿に見えた。談話室で、ホットミルク350円を飲み、くつろがせていただく。
- ■その他
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- 痔が切れた。
- 高瀬ダムから、小型タクシーで大町まで行く。6920円だ。信濃大町郵便局でデポを回収し、今夜は人間並に宿に泊まってくつろぐ事にした。駅前の「七倉荘」という宿にお世話になる。風呂、洗濯機、乾燥室付き。コンビニまで徒歩8分。風呂のみの利用も可能。
14日目(8月18日)/七倉ダム〜高瀬ダム〜湯俣温泉
くもり→にわか雨
- ■行程
- 七倉山荘-1:30→高瀬ダム-1:00→林道終点-0:25→名無小屋-1:00→湯俣温泉(晴嵐荘) [3:55]
- ■コース概説
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タクシーで高瀬ダムまで戻る筈だったが、体がなまらないようにと思い、七倉で車を降りた。
歩道には充分な幅が確保されていないので、車に注意。トンネルの中を歩くのは楽しい。
高瀬ダムを過ぎてからも、しばらくは舗装された道路が続く。具体的には、高瀬隧道の次のトンネルの出口までが舗装道路だ。ただし、林道の終点(地図上で、道が点線に変わる所)までは、未舗装ではあるけれども充分車が入ってこられる。10トントラックでも入れそうな道幅がある。
この林道終点は、広い駐車場になっており、幕営もできそうだ。やっていいかどうかは分からない。
そこから先は、徒歩でしか進めない。樹林帯の下を行く。所々で、脇の斜面から崩落してきた石が道の真ん中に山積されている。つまり、歩いている時は、脇の斜面からの落石に注意せねばなるまい。実際「落石注意」の看板があっちこっちに張りつけられている。
コジ沢付近は開けっ広げな河原だ。増水時は冠水するので、もっと山の斜面沿いを行くことになるらしい。
湯俣温泉には2つの山小屋があるが、うち1つは廃屋なので使えない。利用できるのは、「晴嵐荘」のみ。場所は、高瀬川の左岸、登山道から吊り橋を使って対岸へ渡った所だ。この吊り橋も、大雨が降ると、流されるかどうかの瀬戸際に立たされる、と晴嵐荘のご主人はおっしゃっていた。増水すると陸の孤島になっちまうってことか。
晴嵐荘周辺の広場に、直径5メートル位の穴が幾つか穿たれていて、水色をおびた湯で満たされている。「湯俣温泉」である。冬でも地熱の影響で雪が積もらず、野生の猿が入浴しに来るらしい。
- ■電話
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高瀬ダムを過ぎるとどこにもない。携帯も、谷間なので入らない。それどころかラジオも入りにくい。
- ■水場
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林道終点から先、何度か枝沢ど出合うから、そこで汲める。また、晴嵐荘には水道があって、無料で使える。
- ■幕営適地・小屋
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晴嵐荘の脇に幕営できる。テン場と温泉が混在しているので、温泉からある程度距離を置いて張らないと、出歯亀と思われてしまう。500円。「水が来たら急いで逃げて下さい」とご主人に忠告される。どうやらここも、大雨が降ると冠水するらしい。小屋の高さもテン場とそう変わらないから「どこへ?」と聴きこうと思ったが、怖くて聴けなかった。
利用できる小屋は、名無小屋と晴嵐荘の2件だ。
名無小屋は無人で、入った所が土間。囲炉裏があって、周囲の壁に薪が山積みされている。その隣の部屋が畳敷の寝室になっている。昼間でも薄暗く、夜ここで一人で寝ろと言われたら、ぼくだったら泣いて許しを乞う。
晴嵐荘には人がおり、各種食糧や温泉用のタオルなどを取り扱っている。ジュース250円。温泉に入る時は、小屋に料金を支払う。ひとり500円だ。
- ■その他
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林道終点に、ボディに「晴嵐荘」と書かれたワゴン車が駐まっていた。もし小屋に泊まるんだったら、大町からここまで送迎してくれるんだろうか。
にわか雨→晴れ
- ■行程
- なし(水俣川の水量が減るのを待つため、停滞)
- ■メモ帳より抜粋
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水俣川の減水を待つ為の沈。午前7時にフニャーっと起き、ラーメンを食べる。水に藻が混じっている・・・これは雨水。飲む度に腹痛がする。
午前中は時折にわか雨も降ったが、午後からは晴れる。テントの中がにわか暑くなり、たまらず外に出る。谷間なのであまり遠くまでは見渡せないが、いい風景だ。しかし硫黄臭い・・・
16日目(8月20日)/湯俣温泉〜千天出合〜北鎌沢出合
くもり→快晴
- ■行程
- 湯俣温泉(晴嵐荘)-2:39→水俣川の渡渉点(渡渉の所要時間=0:58)-0:38→天上沢の渡渉点(渡渉の所要時間=0:20)-1:23→貧乏沢出合い-0:23→北鎌沢出合い [6:21]
- ■コース概説
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一般縦走路ではないので、薮こぎ、渡渉、岩登りなども時に強いられる。ルートファインディングや現在地把握も、昨日までとは比べものにならない位難しくなる。入山する時は、経験者をパートナーにしたい。ぼくのように初挑戦で単独強行すると、事故った時「無謀登山のなれの果て」「何が彼を狂気に走らせたか」と山ケイに書かれるいい材料になってしまうから、ぜひ止めるべきだ。
コースには、ずっと踏み跡程度の道が付いている。おおむねそれに従って問題ないが、途中二分三分する箇所もあるので、自信のない場合は偵察に出てルートを確認せねばならない。地図読みのレベルは、可部冠のリングW位のものだろう。
水俣川沿いに、川面から10メートル程の高さを高巻かねばならない箇所が数カ所ある。また、川べりすれすれをへつって通過しなければならない所もある。これらは、槍の肩から槍ケ岳に登る位のグレードだと思う。難しい所にはロープが残地されているので、引っぱっても切れない事を確認の上、利用させてもらおう。
特に気を付けなければならないのが、水俣川、天上沢の渡渉だ。特に前者は水量が多く、流れも速い。ぼくは、倒壊した吊り橋の手前にある、幅10メートル、深さ50〜60センチメートル程度の浅瀬を歩いて渡った。後者は、岩の上を跳びはねて対岸に渡る。滑ったら知らない。
2回目の渡渉が終わったら、あとはそれほど難しくない。ただの河原歩きになる。川岸を歩く事もできるが、草木や倒木で道がせき止められているのでなかなか距離が伸びない。河原がある程度開けてきたら、そちらに移ると良い。
北鎌沢との出合いには赤テープが張ってある。明日登る北鎌沢が、北鎌尾根に向かって延びてゆく様子をはっきり見ることができる。槍ケ岳のピークを望む事もできる。
周辺を捜すと、よさそうなキャンプサイトが結構見つかる。ラジオは入りにくいが、静かで快適なキャンプが楽しめるだろう。
- ■コース詳細
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晴嵐荘から吊り橋を渡り、高瀬川の右岸に移る。
すぐ上流にあるダム管理棟の左脇を通り抜けて進むと、頼り気ない吊り橋が現れる。ここを渡り切った所が、伊藤新道との分岐だ。指導標が置かれている。もちろん「槍ケ岳」の方向へ進む。
笹の被ったトレースを1キロ程進むと、対岸(右岸)に大きな谷が見える。「中東沢」だ。この谷と水俣川が合流する付近で、左岸が絶壁になっている。傾斜は60度位。残地ロープがあるので、そいつに沿ってなるたけ平らな部分を歩いて横切る。
ここから200メートル位行った所で、縦走路が川べりに接する。川岸の大岩をへつって越えるのだ。岩にはロープが備わっている。たとえ落ちても膝から下が濡れるだけなので、まだまだ面白がっていられる。
さらに200メートル程進むと、急登になる。(更新中)
- ■電話
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あるはずもない。
- ■水場
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いたる所で枝沢と出合うから、水には不自由しない。北鎌沢も水量は豊富だ。ただこの沢は、登山者の捨てたゴミがたくさん落ちているので(明日分かる)、ひょっとすると変な物質が融け出してるかもしれない。
- ■幕営適地・小屋
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小屋はない。幕営適地は、千天出合いの東側の斜面(縦走路上・看板がある)に一張り分。北鎌沢出合いの周囲にいっぱい。
- ■その他
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山岳パトロールとか、ボランティアで清掃してくれる人もここには居ない。だからゴミがいっぱい落ちている。未開封のカロリーメイトと、エアリアマップを1冊発見。明日はもっと大量のゴミを見る事になる。
17日目(8月21日)/北鎌沢出合〜北鎌尾根〜槍岳山荘
快晴
- ■行程
- 北鎌沢出合い-0:15→右俣・左俣の分岐-1:25→北鎌尾根出合い-1:27→独標トラバース始点-0:33→独標過ぎピョコ-3:05→北鎌平-0:50→槍ケ岳-0:12→槍岳山荘 [7:47]
- ■コース概説
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昨日に引き続き、一般縦走路ではない。滑落したらあっさりあの世に送り込まれる地形が大部分を占めている。核心部の難易度は、広島の山で言うと、二谷の荒神の滝をノーザイルで行く程度のレベルだ。ただし、高度感は沢の数十倍あるので、心理的な難易度はもう少し高い。
核心部はあとで説明するとして、まず取りつき部分から。
北鎌沢がすぐ二分している。これはどちら側に入っても、すぐにまた合流するから問題にはならない。
15分ほど進むと、再び沢は二分する。今度は進行方向右手の沢に入る。水量の少ない方だ。水量の比率は5:1位。
ここから北鎌尾根まで、この北鎌沢をツメてゆく。巨岩が多く登るのは面倒くさいが、面倒くさいだけで難易度は高くない。まだこの辺りは植物も多く、山の印象はまるで、イワイ谷をツメている時のようだ。このもう2時間も先には、岩だけしかない灰色の世界が迫っているなんて、ちょっと信じられない。
登りやすい地形なのでつい調子に乗ってペースを上げてしまいがちだが、傾斜はとても急なので急がないほうがいい。また、水はかなり上の方でも採れるから(このときは2300メートル付近まで大丈夫だった)、採水も急がないほうが疲労は少ない。
記念すべき北鎌尾根の出合いはゴミ捨て場になっていた。
しばらくはまだ樹林帯の中だ。「バチ道」と言って差し支えない、はっきりしたトレースがある。
・2749の手前の急登からだんだん面白くなってくる。ここはハイマツを手がかりによじ登る。途中、畳2畳くらいある一枚岩を直登。ここは落ちたら骨折するであろう。巻き道はない。
独標は、千丈側(北側ね)の基部をトラバースする。このトラバースを境として、辺りの様子ががらりと変わる。岩一色だ。トレースはまだよく分かるが、今年は、上高地周辺で頻発した地震の影響で、所々そいつがかき消されてしまっている。他に歩くところもないから、仕方なくその瓦礫の中に足を踏み入れる。これは怖い。恐ろしい。
・2873の辺りから、徐々にトレースが不明瞭になっていった。不可解なトレースが幾多も分岐しては消えるを繰り返しており、何度も偵察に出る。とうとう核心部だ。
ちょっとトレースを外れるとすぐガレ場に迷い込んでしまって、脱出に並々ならない神経と時間を費やす。足元の岩の半分は浮石と考えて間違いない。簡単に死ねる。ぼくは滑落2回。計25メートル。親指の先くらいの肉片を脛から失った。危ねえ危ねえ。
北鎌平(標高3000メートル付近)から槍の穂先を詰める部分が、このルートのクライマックスになる。ここは巨岩帯で、浮石は少ない。一見ルートはないが、よーーーく観察すると、なんとなく踏み跡が見えてくる。間違えると進退極まる事請け合いだから、偵察を怠ってはならない。登攀のグレードはここが一番高い。
槍ヶ岳ピークで久しぶりに他の登山者に会えるだろう。思わず抱きつきたくなる。
- ■電話
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槍岳山荘に、カード専用(硬貨も使えたかもしれない)の公衆電話がある。また、今日のコース上のどこからも、携帯は通じなかった。
- ■水場
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北鎌沢のかなり上部でも汲める。もちろんその数日間の降水量に拠るはずだが。
槍岳山荘では1リッター200円で買える。
- ■幕営適地・小屋
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北鎌沢の北鎌尾根出合い。・2749。北鎌平の3箇所で幕営可能と思われる。6テンの場合、張り数はそれぞれ、2、2、20ってところ。ただし、北鎌尾根出合い以外の2箇所は、吹きさらしの上、水も容易に得られないから、それなりの覚悟が必要だろう。
- ■その他
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ぼくには過ぎたコースだったが、一生忘れられない。
18日目(8月22日)/槍岳山荘〜北穂高小屋〜涸沢ヒュッテ
快晴
- ■行程
- 槍岳山荘-0:18→槍ケ岳-0:15→槍岳山荘-0:07→飛騨乗越-0:14→大喰岳-0:28→中岳-0:52→南岳-0:04→南岳小屋-1:07→長谷川ピーク-1:07→北穂高山荘-1:10→涸沢ヒュッテ [5:42]
- ■コース概説
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早朝の槍ヶ岳ピストンは、手足の届く範囲内に、常に堅牢な支点を見つけられるので、慌てなければ一向に問題はない。槍ヶ岳にご来光ピストンなんて、例年だったら、小屋から頂上までびっしり渋滞してて登りたくなくなるものだが、今年は地震の影響でガラガラだった。ピークで震度4くらいの地震に遭ったが、これは絶叫マシーンに乗ってるみたいで面白い。直後、飛騨乗越を、1ガロンのドラム缶くらいの大きさの岩が、煙を上げて転がり落ちていった。
大喰岳、中岳、南岳と、微小なアップダウンが繰り返される。中岳のピーク手前には鎖場があって、巻いて登る事もできるが梯子のほうが面白い。
- ■電話
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- ■水場
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- ■幕営適地・小屋
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- ■その他
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19日目(8月23日)/涸沢ヒュッテ〜横尾〜上高地
快晴
- ■行程
- 涸沢ヒュッテ-1:40→横尾山荘-0:41→徳沢園-0:35→徳本峠への分岐-0:03→明神-0:38→河童橋-0:08→上高地バスターミナル [3:45]
- ■コース概説
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- ■電話
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- ■水場
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- ■幕営適地・小屋
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- ■その他
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