2003年10月に行った、北アルプス東部・中房温泉~常念岳~蝶ヶ岳~上高地でのトレッキングの記録です。
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いまのところ、Nancy Playerには、Windows 版(Windows 98 Second Edition, Me, 2000SP1, XP)しか存在しないようですので、Windows以外をお使いの方には動画をご覧頂けない状態になっておりますが、なにとぞご容赦ください。
紅葉に沸いた木々も枯れ、北アルプスは、昼なおつららが消えない冬景色に染まろうとしている。
山が寒いのは当然として、信濃大町の駅も、朝はもう真冬並みに冷え込んで、ステビバできる陽気ではない。痙攣しながら寝る羽目になるだろう。おとなしく宿か、夜行列車を使うべきだ。
中房温泉に行くなら降りるのは穂高駅だが、ムーンライト信州を寝過ごし、信濃大町まで行ってしまった。信濃大町は、立山黒部アルペンルートの玄関口なので、降りる人も多く、気配で目を覚ましやすい。穂高駅停車時は、これと対照的に閑散としているので危険である。
穂高駅から中房温泉へのバスは、ムーンライト信州と接続して発車するため、次の松本行きで引き返しても間に合わない。中房温泉までタクシーにせざるを得なくなる。
が、上手い具合に、寝過ごした方が他にも2名いらっしゃって、照れ笑いしながら声かけあって、一台に相乗りする。ひとり\2400で済んだ。(バスなら\1700)
大天井から東鎌尾根へ抜けるつもりだったが、もう槍岳山荘まで飛ばすのは無理と思って、行き先を常念に変更する。西岳や大天井の小屋は既に営業終了しており、おやつやビールが買えないので、気がすすまなかったのである。
この日(2003年10月18日)現在、北アルプス南部でまだ営業していた小屋は、燕山荘、常念小屋、蝶ヶ岳ヒュッテだった。合戦小屋、大滝山荘、大天荘は既に閉鎖。徳本峠小屋は、バスの時刻が迫っていたので未確認である。
タクシーの運転手さんの話では、先週の連休(10月11日~13日)までは紅葉も持ちこたえていたそうだ。
この一週間ですべて散って、山の賑わいは、常緑樹と枯れ葉と、苔生した岩くらいしか残っていない。
とはいえ、日陰に目をやると、霜柱、つらら、薄氷の沼など、冬の芸術品がこんもり待ちかまえていて、写真を撮る楽しみは不自由しない。もちろん三脚を使わないとまともに写せないので、撮影のアングルは限定され、肉眼にしか残せないスナップが多い。来た者だけが味わえる光景に心躍り、観光客冥利に尽きるだろう。
つららも霜柱も人を童心に帰し、つららは歯でばりぼりかじられ、霜柱は登山靴の地団駄で粉々になる。よって一番乗りが鉄則である。素早く登ろう。
この日の所要時間は、休憩抜いて、中房温泉-2:20→燕山荘-1:30→大天荘-2:00→常念小屋 であった。
前述の通り、燕山荘はまだ営業中である。もっとも、撤収準備の真っ最中で、年末大掃除さながらの光景だった。従業員の方々は笑顔がステキ。
腕時計をザックのさきっぽに付け替えてしばらく放っておくと、内蔵の温度計は、摂氏0度近くを指す。日陰では一日中氷が溶けることはなく、日向でも、裏銀座の稜線から吹き付ける風のせいで、体感温度は氷点下だ。鼻水が出まくって、ちり紙と手袋は手放せない。その割に日射しが強くて日焼けは進んでしまう。日焼け止めも持って行きましょう。
天気は快晴で稜線はすみずみまでじろじろ見れる。頭上はとてつもない青空が占領し、その上この槍ヶ岳だから、テンションは上がって心は脳天気だ。槍・穂高の山ひだは霜か雪がぶっかけられていて、それが尚更血を騒がせる。今年も早く登りに行きたい。
この燕から大天井を通って槍まで続く縦走路を「表銀座」というが、平常心を失うほどのけばけばしさと、買い物(寒いから山小屋のコーヒーがうまいのだ)の楽しさを喩えてのことだろう。名の本当の由来は、調べても出てこなかったんですが、どなたかご教授いただければ幸いです。
途中現れる二つの小屋。左が大天荘で、右が常念小屋。(もし上下二段に並んでたらウィンドウの幅を広げていただければ幸いです)。赤い屋根は、ヘリから見つけやすいとか、雪山で目立つとか、相応の理由がある。かつてこの発想に感激し、テントのフライシートは赤いのを買ってしまったが、逆に、市街地に近い所でテントを張った場合、ヤンキーとかに発見されやすくなってしまった。諸刃の剣である。
常念小屋は、昔(4年前に)来たときは、小屋から西に延びる廃道を通って無料の水場に行けるようになっていたが、今は道が完全に通行止めになって、水は小屋で、\100/1Lで買うのみとなっている。トイレ使用料\100と、幕営料金\500/テント1つ合計で\1000あれば1泊できて経済的だ。
午前中にたっぷり楽しませてもらった雲海が、午後になると尾根に這い上がってきて、あたりは曇ったり晴れたりする。そして次第に気温は下がり、いつしか夕暮れる。
「夜は余裕で氷点下」という、常念小屋のご主人のつぶやきに従い、陽の出ている間は積極的にシュラフを干すのだ。
裏がえしにして、熱を吸いやすい黒い面にたっぷり日光を当てる。日が陰り始めたらシュラフカバーに納め、夜まで大事に保管する。こうすることで、1時間は熟睡時間が延びる。逆にいうと、スリーシーズンシュラフで単独テントでは、こうでもしないと一晩中寝られない。
その他の定石として、陽の出ているうちに寝入るとか、ザックに足を突っ込むとかは、当然実施する。
なにしろ氷点下8度まで下がったため、朝は、シュラフから出るのがつらい。下界だったら、出社拒否症になって引きこもっているだろう。
これからの時期の登山は、起床するタイミングでちょっと魔が差し二度寝→素晴らしい日の出と雲海を見逃す、といった惨事に陥りやすく、この時間帯がむしろ「逢魔が時」といえる。
根性のある人や、根性が無くてもトイレが近い人は、陽が昇る前にテントから出ることができるので、その場合、すばらしい星空も見られるというおまけつきだ。テン場から丘を越えると、信濃大町の夜明かりが雲海をほのかに照らし、そりゃ凄い。
常念岳への登りで日がじわじわ昇ってくる様(2分31秒/2.46MB/Nancy形式)も拝めた。紅葉は枯木になってても、快晴+雲海+ご来光の三拍子揃った山は、何度出かけても楽しいものだ。
今日の行程は次の通り。
常念小屋-0:40→常念岳-2:10→蝶ヶ岳ヒュッテ-0:50→妖精の池を往復-0:50→大滝山荘-1:55→徳本峠小屋-0:40→明神-0:35→上高地
途中で行動食を食い尽くしてしまい、仕方なく、カレールーをパリポリかじりながら歩いたんだが、脂の固まりだけあって、さすがというか、みるみるうちにパワーが回復する。もっと持ってくりゃよかった。
常念岳から先は、特に切り立った崖とかも出てこず、ハイマツがじゅうたんのように広がる、なだらか稜線が延々と続いている。とはいえ時々、標高差200mくらいのアップダウンがあって、なぜ巻き道を造ってくれないんだろうと、いつもの怒りが沸いてくる。
ここは北アルプスの一番東にある稜線なので、携帯電話の電波がよく届く。常念から南は、ずっと携帯アンテナ3本でiモードも入る。ただなぜか、何度やってもiショットがつながらず、腑に落ちなかった。音声回線は不安定なんかもしれん。
蝶槍の手前のあたりから、鞍部には得てして、腐ったような沼が現れるようになる。そのうちの一つが、エアリアにも「お花畑マーク」と共に記載されている「妖精の池」だ。
ヒットポイントが回復したり、銀の斧とか授けられそうな場所に思えたので、ちょっと蝶ヶ岳ヒュッテから足を伸ばしてみたが、心のどこかで期待していたとおり、ただの沼(1分24秒/4.05MB/Nancy形式)に過ぎなかった。貴重な行動食を減らすのみであった。
最後まで快晴は止まず、奥穂高の岩ひだも充分楽しめた。紅葉がハゲた後だったから、登山者はそんなに多くなく、常念小屋や、蝶ヶ岳ヒュッテに泊まっていた方の話では、いずれも、宿泊客のほとんどが個室、またはそれに準ずる状態だったとの事である。
山小屋は、すぐそこに迫っている冬に備え、最後の掃除・日干しに追われている。年末大掃除の様相である。しかし、屋根の上には、干してある布団にねそべって昼寝をする従業員も。こち亀の両さんのような役割を演じる方は、どの組織にもいるものである。
だから、上高地も閑散としてて良い雰囲気かな、と期待してたが、すごい混雑(0分44秒/2.08MB/Nancy形式)で、乗れると期待していた新宿直行のバスは満席。古典的に、新島々乗り継ぎで松本→新宿と帰らねばならず、とっても面倒くさかった。
もっとも、松本方面行きはまだ良い方で、高山方面行きなど、バス乗り場に、信じられないくらい長蛇(全長250m位)の列ができており、日没まで乗れない気がする。行かれる方は注意して下さい。
ムーンライト信州は、新宿を金曜の23:54に出る。この時と場所ゆえ、会社が終わった後、家に帰って準備して、歌舞伎町で晩飯食べたりできて便利である。快速列車だから、乗車券と座席指定券(全席指定席)だけで乗れる。穂高まで\4,310だ。
今回は、当初、もっと早い時間の「あずさ」で行くはずだったんだが、会社の研修から一週間ぶりに部屋に帰ったら、スポーツジムで履いたまま洗濯忘れとったジャージ(登山用パンツ)が机の下で発酵していた。このため洗濯せざるを得ず、ムーンライト信州に変更したのである。金曜にもかかわらず空いてるらしく、座席変更は簡単で、「アルプス」が廃止されたのもうなずける。