ここのところ、真っ白なマシンルームで一日中座っている仕事が多かったため、やけくそ気味に、特急「あずさ」に乗った。
槍に登ってスカッと発散したくなったのである。
新宿を、金曜の21:00発。車内は混雑していたが、乗客の顔は、一週間の役務から解放された安堵感でいっぱいだ。すしづめのデッキにすら和やかムードが漂っている。
自由って大事よなぁと思いつつ、駅で買った日本酒飲んで黒豚サラミ食べて松本駅前で野宿。
松本電鉄・新島々行き始発(時刻表)と、上高地行きバス(時刻表)を乗り継ぐと、河童橋に着くのがだいたい朝8:30になる。
朝の爽やかな時間帯はとうに過ぎ、横尾へ続く森の道は、もう昼飯食べたくなる明るさだ。すべて急行「アルプス」を廃止しやがったJR東日本が悪いのである。
一週間前までは、新宿から直通夜行バス「さわやか信州号」も出ているので、できればこちらを使うと便利です。
今回はデジカメのみ持ってきた。7月に買った、Pentax のOptio 43WRである。
レンズは、35mmフィルム換算で37mm~104mm相当。焦点距離はミニマム10cmなので、小さい被写体は、アップで撮れない。
瑞草豊かな上高地なので、つっ立ってるだけでも緑は満喫できる。しかし、苔生した木とかに寄りかかって、食い入るようにそれを眺めると、視界が全部緑に埋まり、より風情が出る。
苔をズームで撮っておけば、そのシチュエーションをあとで思い出すのに便利な訳だが、このカメラではなかなか難しい。
防水仕様のせいか、テレコンやクローズアップフィルターがつけられないのも、アップ撮りを難しくしている。
カメラのサイズ、防水仕様な点、ユーザーインターフェイス等は気に入っているので、今後、よりズームで撮れるようなマイナーチェンジがなされる事を、願ってやまない。
槍まで、オーソドックスに槍沢を通る。
途中の小屋は、既に冬季閉鎖に入っており、売店でビールやおやつや肉を買う楽しみは、来年までおあずけだ。
写真は槍沢ロッヂ。撤収し忘れか意図的か分からないが、風鈴がひとつ、売店のひさしに残ったままになっていた。季節はずれなチリンチリン音が、槍沢のせせらぎと合わさって、体感温度がますます下がる。
このとき温度計は4℃を指していたが、風鈴のせいで気分は氷点下だ。
雪の重みで抜けることを心配してか、二の沢にかかる橋から、板が取り外されていた。
スタンドバイミーよりひどい。股間が縮んで、さらに体感温度が下がるではないか。
こういうトラップは、もっと夏まっさかりに仕掛けてほしい。
川は、入ったら30秒で心臓停止の冷たさだが、写真だとグッピーが泳いでそうに見える。
Optio を川につっこんで撮った一枚。説明書には「水中撮影はできません」と書いてあるが、なんとかなりそうな性能だ。
この川は、練習するには水が冷たすぎるので、まず暖かいガンジス川とかで、水中写真の経験を積みたい。
猿があらわれた。
冬ごもりに備えてか、通常のニホンザルとくらべ、随分まるまる肥えてるように見える。アルプスの厳しい冬を乗り切る、生き物の知恵である。
「人間も動物だし、ふつう冬になると体重増えるよね!」と公言する女性を複数知っているが、彼女たちの体重が、果たして春には元に戻っているのかどうか、知らされたことは無い。(閑話休題)
11月下旬の北アルプスは、紅葉でも雪景色でもない中途半端な時期と思われがちだが、景色はキレイだ。
山肌は、枯木と雪と岩と常緑樹に覆われ、手の込んだじゅうたんチック。
槍沢は広い谷なので、日当たりがいい。標高の低い(2500m以下の)箇所では、雪はすぐ溶け、今の時期はまだ貴重品である。
服装も冬山用だし、歩いている途中はそこそこ暑い。だから、木陰に「雪だまり」を見つけると、小躍りしたくなる。すくって食べるのだ。
レディーボーデンよりうまい。プレーンで充分おいしい。練乳もレモンの砂糖漬けもいらない。(あったら喜んで食べますが)。
食べ過ぎるとありがたみが薄れるから、30分に1回と決めている。この頑強さが、老人性の快感に繋がり、ますますおいしくいただける。
この日は、飛行機雲が1時間近く拡散せず残ってるような、いい陽気。360度パノラマで、もちろん富士山が見えた。
徳沢から槍ヶ岳まで、一人の登山者とも会わなかったんだけど、この景色を逃すなんて勿体ない。
夕焼け時の360度パノラマも、誰はばからず撮りまくりである。槍の肩も、槍ピークも、冬季小屋さえまったく無人。
冬季小屋に独りで泊まるのが呪怨なみに恐いのを除けば、グッドなプランだと思います。
はるか遠くの航空ルートも一望できる今日の空。
↑には一筋しか写ってないが、このとき空一面が飛行機雲だらけだった。さながら夕焼けキャンパスに、白い絵の具で無数の点をなでつけたような状態。
TSUTAYAで紅の豚のDVD借りたくなってきた。
槍の肩には、さすがに積雪もあり、朝晩の水に不自由しない量が得られる。風向計のポールには、海老のしっぽも貼りついている。
登山ルートも、殺生ヒュッテから先のジグザグ道は、雪が堅く、傾斜も急なので、アイゼンなしだと危ない状態だった。
まして下りはいわんやだし、突然、もっとひどい降雪に見舞われる可能性もある。装備は、冬山用一式あったほうが安全だ。
夜は、冬用シュラフ(ISUKA Alpha Light 900) + シュラフカバーで暖かく寝れた。
しかし外は、一晩でかなり様子(雪の量)が変わっている。
槍ピークまでは、まだ鎖も埋まっていないし、ホールドも明瞭なので、夏山と同じくらいの難易度だ。写真も余裕で撮れる。ピッケル持っていると、かえって邪魔かもしれない。
槍ピークに土日に誰もいないなんて、ちょっと想像がつかない。
普段であれば、人が入れ替わり立ち替わりやってくるから、「写真撮っていただけますかー?」とたやすく頼めるが、まさか槍ヶ岳で自画像も撮れないとは思わなんだ。せっかく眉毛整えてきたのに。
オマケ
上高地ビジターセンターの売店で見かけたホワイトガソリン。学生時代、間違ってキャンプファイヤーの着火剤に使っちゃって、あやうく部員全員を爆死させる所だった燃料。
私にとって思い出深い液体。
マルチビジョン。上高地周辺には、監視カメラが何十箇所にも設置され、たとえば焼岳の噴火とかがリアルタイムで確認できるようになっているのだ。
今、右下に明神橋が写っている。さっき帰りがけ、この橋の上で、不倫っぽい熟年カップルが熱い抱擁を交わしていたが、丸映りだったのであろう。
不倫とは縁のない私だが、抱擁中でも、こういったカメラにうろたえることなく、余裕でVサインを返せるような、貫禄ある恋愛を成してゆきたいものである。
酔っぱらって書いているのでおしまい。