アイピケ(アイゼンとピッケル)登山である。
今年は暖冬で受難続きだったが、元旦の大降雪で、お膳立ても整った。
1~2桁台でジリ貧だったスキー場の積雪量は、「積雪・200cm」と3桁に突入。目下、増量中らしく、黒板が、何度も上方修正された跡が分かる。
天神平スキー場は、ゲレンデ数こそ少ないが、超・上級者コースが揃っている。滑りの腕に覚えある人には、下山後に挑戦するのもいいだろう。
しかし、ラッセルのルートとしては普通に拷問だ。積雪直後なら、残虐とさえ言っていい。背丈も超している。4時間ていど続けないと、稜線に上がれない。
深いトレースの中にいる我々は、周囲を滑るボーダーさんの視界には入りづらく、衝突される危険もある。遠くからエッジを切る音が近づいてくる度、心臓が縮み上がり、雪面に伏せてしまう。
心身疲れ、目の下に隈ができた。
もちろん、この脇にはリフトが運行している。しかし利用はできない。
天神平スキー場の規定により、「積雪期は、リフトの登山での利用は禁止。スキーやスノボを身につけていない人は、搭乗をお断りしている」のである。
リフト乗り場の係員さんに、「では、登山姿であっても、スキーさえ履いていれば乗せて頂けるのか?」と訪ねた所、「はい」との事だったので、アイピケ登山であっても、ダミーのスキーを持って行くのは、悪い投資ではない。
ゲレンデ越えですっかり遅くなってしまった。一日目は、避難小屋で行動を打ち切る。
稜線に上がってから避難小屋までは、逆から来た登山者のトレースができたてほやほやで、ありがたく利用させていただく。避難小屋には1時間30分で着いた。
眺望の余裕も次第に出る。移動性高気圧に覆われて登山日和の谷川岳界隈。
稜線の先にある谷川岳は、生クリームを塗ったケーキのようだ。独立峰で、こういうこんもりした雪化粧って、あんまり見たことがないせいか、異世界に連れてかれたような気分になる。楽園のようにも、地獄のようにも見える。
ラッセルで時間食うことを予測し、朝5:30出発とする。曙と星と、街の明かりにゲレンデの燈火。
正月につき、早朝から営業しているスキー場も目立つ。視界には、星の数より、ゲレンデの数のほうが多い。
副作用として、興ざめな有線がここまで聞こえてくる、とかがあるが、携帯は入りやすく、遭難対策的には Good。(DoCoMo の PDC は、避難小屋~谷川岳の直下まで使用可能。ただし FOMA はずっと圏外)
谷川岳の生クリームが、曙に染まる。何味なのか想像つかない色である。
これを撮影した付近で、熊の足跡を10トレースくらい見かけてしまう。とっくに冬眠してる筈なのに。降雪が急すぎて、冬支度が間に合わなかったのだろうか。
寝入りばなの熊は食欲旺盛なので、出くわしたら、行動食と一緒に生クリーム和えにされてしまいかねない。
いつでも応戦できるよう、ピッケルをにぎりしめて歩く。
熊にヤラれることもなく、頂上である。
谷川岳って、もっとガチガチにクラストしたアイピケの殿堂みたいな所を想像していたが、普通にラッセル。
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しかし風は強く、標識にまとわりついた「海老のしっぽ」は、気合いの入った規模である。一生かけても食いきれない。
快晴・移動性高気圧直下にもかかわらず、行きしなのトレースが、帰り(1時間後)には無くなっていたことも、風については3000m級であることを裏付ける。実際の標高は1977mで、雲取山より低い。
新雪は風に舞い、輝く。
見た目が美しいのはもとより、雪焼けでほてった肌で適量を受け止めると、ミストサウナを冷やしたような感触を楽しめる。
風紋もまた、視覚・触覚に訴える。
混沌と吹き荒れる雪山の風を、具体的な形にして見せてくれる。山には、美しい流れが息巻いている事を、登山者に教えてくれるのだ。
また、表面はややパリパリ、中はふっくらなので、踏み荒らして遊ぶと楽しめる。きっとみんな興奮するよ!
今回は、某山仲間と登った。
卓越したパワーの持ち主で、ラッセルや、イザという時の緊急避難では頼りになるが、立ちションの際、あまり遠方まで行かないのが泣き所である。
かくして、谷川岳は奴のDNAに染まってしまった。春にはキレイになってるかな。